エミリー
文・マイケル・ビダード 絵・バーバラ・クーニー(ほるぷ出版)
お隣に住む“なぞの女性”は、20年近くも家の外に出たことがありません。知らない人が来ると、どこかに隠れてしまいます。けれどもある日、その女性から美しい手紙が届いて―――。
アメリカの詩人エミリー・ディキンソンと、お隣に住む小さな少女との、とある出会いの物語。
雪の降りしきるアマーストの町、暖炉の燃えさかる部屋、そして花の咲き乱れる明るいサンルームや春の訪れを告げる庭の様子など、どのページもとても美しくて、冬が来ると手に取って眺めたくなる絵本です。表紙も素敵ですよね。何かのはじまりを予感させるみたいで。
バーバラ・クーニーが描く、真っすぐに何かを見据えるような少女の目が特に印象的です。
なぞの女性との出会いを通して少女は、詩という謎、人間という謎、世の中にあるたくさんの不思議な謎について思いをめぐらせていくのですが、それはまるで、小さな子供が世界を手づかみで味わって、その不思議さに驚きつつありのまま受け入れていく、そんな様子を見ているよう。謎は少女の中でぐんぐん育ち、やがて芽吹き、そして春がやってくるのです。
少女やエミリーが着ている真っ白な服や、二人を結びつけるユリの球根(春に真っ白な花を咲かせる)は、彼女たちの純粋で曇りのない眼差しを象徴しているのかもしれません。
言葉のひとつひとつも音楽のように美しく繊細です。春が待ち遠しい日の読書にぜひ。