エゾオオカミ物語
作・あべ弘士 (講談社)
寒い寒い冬の夜、シマフクロウのおじいさんが寝物語にエゾオオカミの話を聞かせてくれます。100年前に絶滅してしまったエゾオオカミたちのことを―――。
その昔、北海道の大地では、アイヌの人々とエゾオオカミが、互いを畏れ敬いながら自然の中で調和を保って暮らしていました。
オオカミはシカを食べ、シカは森の草を食みます。必要以上には取らないからこそ数のバランスも保たれる。自然界の調和はこうした食物連鎖の上に成り立っているのです。
けれども人の手による開拓がこの調和を壊してしまいます。
開拓のせいでシカを狩れなくなったオオカミは牧場を襲い始め、そのため次々と人間に殺されます。やがてエゾオオカミは絶滅。すると今度は天敵を失ったシカが繁殖し過ぎて森や畑を食い荒らし、今ではシカが害獣とみなされているのです。
でも一体、悪いのはシカなのでしょうか。オオカミなのでしょうか。
『そうしたのは、ほんとうは“だれ”なんじゃろう?』
シマフクロウのおじいさんの抑えた語り口調が、逆に深く重苦しく心に食い込んできます。
自然と人間。その関わりかた。とても難しいテーマですが、繰り返し考え続けていかなければならないテーマでもあります。考えるきっかけを、この絵本は投げかけてくれます。