今月のおすすめ絵本

ほんとに みたんだもん

 作・宮城まり子 (至光社)

主人公は女の子ですが、一人称は「ぼく」。汽車が好きで欲しいのですが、お母さんは女の子は汽車はだめだと言うんです。当時はまだそんな時代だったのですね。女の子は赤、男の子は青が当たり前の時代。その反対は変だと思われてしまうような世の風潮。だからこの子は「ぼく」って言うのかもしれません。男の子が無条件に許されている自由さへの憧れなのか、お母さんへのひそやかな反発なのか。そうして男の子みたいなふりをして、ひとりで遊びに出かける彼女。

ところが、雪の中で寒そうに震えていた捨て犬をヨシヨシと可愛がっているうち、「あたしね…」と、ぽろりと女の子に戻ってしまったりするんです。そこがまたあどけなくて可愛いのです。

その後、雪空に浮かび上がる不思議な景色をこの子が夢中になって見上げる場面は、この絵本の中でもっともうつくしい場面でしょう。夢か現実かわからないけれど、それはもう素敵な眺め。

時に幼い子どもが見る景色は、その子だけに見える特別な景色だったりもします。それが本当かなんて誰にも確かめられません。でも子どもの“心”が見た景色は、その子にとっては本当のもの。『ほんとにみたんだもん』っていう言葉は、トトロに出てきたメイちゃんの「ほんとにトトロいたんだもん!」ってセリフを思い出しますね。

どの子にも、かくされた秘密のすてきな場所がある、と宮城まり子さんは書いておられます。

この女の子が空に見たのも、秘密のすてきな場所が解き放たれたものだったのかもしれません。

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