今月のおすすめ絵本

この世でいちばんすばらしい馬

 作・チェン・ジャンホン (徳間書店)

幼い頃から馬の絵を描くことが大好きだったハン・ガン。彼の描く馬は本物の馬のように生き生きとしているので、いつか命が宿って絵から飛び出すのでは、と言われるほどでした。

そんなある日、町に戦が迫り、ひとりの武将がハン・ガンのもとを訪れます。戦に行くため、この世でいちばん気性が激しく、勇敢で力の強い馬を描いてほしいと言うのです。

ハン・ガンが武将のために描いた馬は絵から飛び出し、無敵無敗の馬として武将とともに猛々しく戦場を駆け巡ります。しかし、いくら殺戮を重ねても戦は終わらず、むしろ殺せば殺すほど、武将の闘志は残忍さを増していくのです。ついに堪えきれなくなった馬は、武将を振り落として走り去るのですが…。

この世でいちばん気性が激しくて勇敢な馬。その馬が、まるで殺戮マシーンのように戦場を駆け巡り、やがて戦の残酷さに絶望する瞬間の表情が凄まじいのです。人間の欲望はとどまることを知りません。敵は一人残らず殺せ、という異様な執念は、いかに強くて気性の荒い馬でも耐え難い苦痛だったのでしょう。

描かれた絵の中でしか、平安を得られなかった馬。この世でいちばんすばらしい馬。絵の迫力もあり、深い余韻を残す絵本です。

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