今月のおすすめ絵本

クマよ

 作・星野 道夫 (福音館書店)

「いつか おまえに 会いたかった」という書き出しで始まるこの本は、まるで星野氏がクマに、自身の長い長い恋煩いをそっと打ち明けているような、瑞々しくて優しい気持ちを感じる本です。全編にピュアで慈愛に満ちた詩と写真があふれています。

クマと人、野生と人間は住む世界が違うもの。たとえ同じ森の中を歩いていても、お互いは遠く星のように離れた存在です。触れたくても触れられない、近寄ることさえ許されないような間柄。だからこそ星野氏はクマをつぶさに観察し、気配を読み、呼吸を感じ、その存在と命の営みを全身で嗅ぎ取ろうとします。

そうして気づくのです。悠久の時は等しく互いの間に流れていて、たとえその姿が見えなくても、存在を感じ合うことは可能なのだと。

それはどこか、神とか宇宙とか自然とか、目には見えない何かを感じたり信じたりする心持ちと通じるものがあるようにも思います。壮大で深遠で底知れぬものへの畏敬と愛情。クマという、野生を代表する存在への憧憬や、深い愛を感じます。それだけに、星野氏の最期は胸にこたえるものがあります。

(星野氏は1996年、クマに襲われ死亡。この本は彼の死後、星野氏の遺稿と写真、写真に添えられたメモを元に作られました)

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