今月のおすすめ絵本

Life ライフ  

 文・くすのきしげのり  絵・松本春野(瑞雲舎)

自分ひとりの悲しみに打ちひしがれているときに、とても花の種を植えて育ててみようなんて気持ちにはなれやしないでしょう。ましてやそれが、かけがえのない人を失った喪失の悲しみであるなら尚更に。

『ライフ』はリユースシステムの無人のお店。ここを訪れる人は皆、自分が使わなくなったものを置いていくかわりに、その時の自分に必要なものを受け取って帰ります。

連れ合いを亡くしたおばあさんが置いていった花の種は、おばあさん一人ではとても抱えきれない未練や無念や絶望といった悲しみの数々であったのかもしれません。

それでも『ライフ』に持っていけば、誰かがそれを必要としてくれる。悲しみの種ではなくて、希望、再生、そして再会を約束する種として…。

大きな喪失感を抱えている時、その人にとって時はもはや止まったも同然に思えるもの。けれどその人のまわりでは、時は刻々と流れている。その流れの中に自分がいることに気づいたとき、再びその人の時間はゆっくりと動き始めるのかもしれません。それは人だけではなく、物も、思い出も、何もかもが…。そんなことを感じながら読み終えました。

時が止まる。でも、時はめぐる。残酷にも思えるけれど、喪失と再生はそんなふうにして繰り返されていくものなのかもしれませんね。

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