今月のおすすめ絵本

ねずみとくじら 

 作・ウィリアム・スタイグ (評論社)

海が大好きなねずみのエーモスは、ある日船を作り海へ出ます。憧れ続けた船旅は素晴らしく、エーモスは大興奮。ところがうっかり海に落ち、大事な船も見失ってしまいます。大海原の真ん中で死を覚悟したエーモスでしたが、そこを助けてくれたのがくじらのボーリス。エーモスを陸地へ送り届けるため一緒に旅をするうちに、この大きなくじらと小さなねずみはすっかり意気投合します。

 

住む場所も食べるものも日々の暮らしも何もかもがまるで違うふたり。けれど互いを知れば知るほど惹かれ合い、秘密や望みを打ち明け合うほどの大親友になります。でもずっと一緒にはいられません。ねずみは陸に住むものですし、くじらは海に住むものです。

「いっしょう ともだちでいような」

「きみだけは わすれるもんか」

別れ際、そう交わす約束の何と切ないこと。

 

大人になってくると、「一生」とか「ずっと」とかいう言葉の曖昧さが胸にこたえるようになってきませんか…?多分、ふたりはもう二度と会うことはないのです。だってねずみは海の底では暮らせません。くじらは陸では暮らせません。そのことを、互いにわかりすぎるほどわかった上での「いっしょう ともだちでいような」「わすれるもんか」なのです。

 

と、ここでおしまいかと思いきや、長い年月が経ったのち、思わぬことでふたりは再会するのですが…。

 

瀬田貞二さんの名訳が光ります。心に残った一文を最後にひとつ。

 

『それから、かんぱんによこたわって、かぎりないほしぞらをながめて、いきて ここにいる けしつぶほどの ねずみのみも、いきて ひろがる だいうちゅうのなかまとして、しみじみ うちゅう ぜんたいを したしく かんじました。』

 

生きる、ということのきらめきが、美しく謳われている物語です。

 

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