今月のおすすめ絵本

おばけリンゴ
 作・ヤーノシュ (福音館書店)

花も咲かず実もならない一本のリンゴの木。持ち主のワルターは、よその庭のリンゴの木がうらやましくてたまりません。どこの庭も春はリンゴの花盛り、秋にはたわわに実がなって、どの人もかごいっぱいにリンゴを担いで歩くのです。

ひとつでいいからリンゴの実がなりますように、そんなに立派な実でなくてもいいのです―――

そんなワルターの切なる願いが叶ったのか、ある日とうとうリンゴの花がひとつ咲き、やがて小さな実がひとつなります。ワルターの喜びようといったらもう、『あちこちを とびまわっては あう ひとごとに ほほえみかけ』てまわる有様。本当に素晴らしい毎日です。

ところがようやく実った大事なリンゴ、せっかくなら…という小さな欲が、次第にワルターの生活をおびやかすことになっていき…。

 

純粋な喜びだけでリンゴの世話に明け暮れていた楽しい日々。それなのに、いつの間にかリンゴが重荷になっていく。立派な実でなくてもいい、と最初は願ったはずなのに…。

ワルターが背負う巨大化したおばけリンゴは、欲にまみれた人間の業の深さを暗示しているようにも思えます。 

話は思わぬ方向へと転がっていき、ワルターには再び安寧な日々が戻るのですが、それでも最後にワルターが祈る願い事に思わず失笑し、同時に考え込まずにはいられなくなります。痛い目にあってなお、まだ欲を捨てきれない、人の煩悩の底深さについて…。

ユーモアあふれる文章でありながら、どこかしら哀感が漂うお話です。

 

 

 

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