おもいでのクリスマスツリー
文・グロリア・ヒューストン 絵・バーバラ・クーニー (ほるぷ出版)
海の向こうでは大きな戦争がおきているけれど、ルーシーの住む谷間の村は静かで、何もかもが平和でした。
その村では古くからの習わしで、毎年交替で決まった家が教会に飾るクリスマスツリーを用意します。今年はルーシーの家の番。ルーシーとパパはまだ春も浅いうちから、ぴったりの木を探しに険しい山の中に入ります。気に入った木を見つけたらしるしをつけておいて、冬になったら切り出しに来るつもりなのです。
ところが夏になると、パパは兵士として海の向こうへ送られてしまいます。村の生活はあくまでも平和なまま。けれども残されたルーシーとママの生活は、少しずつ静かに困窮し始めていくのでした。
やがてクリスマスが近づいて、いよいよ教会にツリーをたてなければならない日が来るのですが…。
戦争はいつだって見えないところでいつのまにか始まっていて、ある日突然自身の生活に降りかかってくる。否応なく巻き込まれる。そんな中、毅然として日々の生活を営み、娘の小さな願いを叶えるために見えないところで心を砕く母親の姿が胸に迫ります。
クリスマスに起こる奇跡は決して偶然の産物なんかじゃない。苦しい中、そこに至るまでこつこつと積み重ねられた努力と、凛として揺るがなかった信念によって、必然的に引き寄せられた出来事を奇跡と呼ぶのではないか。そんなことを思いながら最後のページを閉じました。