さよならトンボ
作・石亀泰郎(文化出版局)
冬を越せない虫、トンボ。
夏の初め頃から飛び始め、秋には風物詩として我々の目を楽しませてくれます。
しかし、その死にざまを目にすることは普段あまりありません。
これは、そんなトンボたちの“死”を克明に写し取った写真絵本です。
パートナーを見つけ、卵を産み…そんなふうにたくさんの仲間と生を謳歌していたトンボ。秋の野に戯れるトンボの姿はきらきらとして、生命の歓びにあふれています。
が、やがて訪れる冬の過酷な寒さの中で次々と死に絶えていくのです。
草の棘に羽を破られ、蜘蛛の巣に引っかかり、あるいは霜にやられて体が凍り…まるで細い枯れ枝か何かのように、ただ朽ち果てていくだけのトンボの体…。
その姿は厳然たる事実を我々の前に突きつけます。命が尽きるとはこういうことなのだと。そこに誰も手を加えることは出来ないのだと。
ストレートな表現ですが、それでもトンボの“死”をとらえるファインダーの向こうに、次の命への希望も込められていることが、読後を柔らかく優しいものにしてくれます。
生命のきらめきとその終わりが、胸にずしりと落ちてくる絵本です。