たつのこたろう
文・松谷みよ子 絵・朝倉 摂 (講談社)
毎日山で遊んでばかりの怠け者の太郎。でも本当は、まわりから魔物の子とからかわれ、村の中に居場所がなかったせいかもしれません。
仲間はずれにされてはいても、太郎が誰かを僻んだり、乱暴を働いたりすることはありません。きっと太郎本人はおっとりとした気だての優しい子どもなのだと思います。
そんな太郎が、龍に姿を変えられた母を探しにいく道中、さまざまな出来事に出会う中で、少しずつ自分にできることは何かを考え、自ら行動するようになっていきます。
やがて太郎は大きな理想を実現するため、思い切った行動に出るのですが…。
旅の途中でふとした折に太郎が見せる利他の行い。単純な勧善懲悪の物語としてことが運ばないのは、まさにこの利他的行為によるところが大きいのではないでしょうか。それこそが、どん詰まりの状況において活路を開き、まわりまわって己を助けることになるわけですから。そういえば母の呪いを解くことが太郎の最終の目的ではないところも、とても象徴的に思えます。
辻褄の合わぬ運命の中で、気弱な怠け者として過ごしていた太郎がどのように変化していくのか、じっくりと堪能していただけたらと思います。