作・ささきまき (福音館書店)
おおかみなんてもういない、とみんな思っていますが、ほんとうは一匹だけ生き残っていたのです。
これは、そんな“ひとりぽっち”の子どものおおかみが、仲間を探してうろついている話。
うさぎの町や、やぎの町、ぶたの町…どこへ行ってもおおかみの姿は怖がられ避けられるだけ。
公園でたのしく遊んでいるしかたちを遠くから眺めて、おおかみは思います。
もしかして しかに なれたら
あそこで たのしく あそぶのに
別に、誰かと群れたいわけじゃない。でも仲間がほしい。みんな、仲間がいて楽しそう。
けれど、自分以外の何者にもなれない自分、という残酷な現実もわかっていて。
十分すぎるほどわかっていて…。
―――このあたり、思春期にさしかかった子どもが直面するあの説明しがたいモヤモヤとしたもの、漠とした不安を思い起こさせます。
おれに 似た子は いないかな
おれに 似た子は いないんだ
ちょっぴりせつなくなるこのくだり。
「個」であること、「個」として立つことの根源的な不安と孤独感が、この2行ににじみ出ている気がしませんか。
ただし、それを諦念や失望感で終わらせないのがこのおおかみのしたたかさ。
やっぱり おれは おおかみだもんな
おおかみとして いきるしかないよ
「何者にもなれない自分」から「自分以外の何者でもない自分」へ。
何がおおかみの心をこのように変化させたのか、それはまったく読者の想像にゆだねられています。
ただ、孤独と引き換えにしてでも「個」としての誇りは捨て去らないおおかみに、何やらじんわりと勇気づけられたりもするのです。
こんなふうに生きられたら。こんなふうにしたたかに。
もしも、誰かにそんなふうに思ってもらえたら、そのときこそおおかみは、“ひとりぽっち”ではなくなるのかもしれませんね。