よだかの星
文・宮沢賢治 絵・工藤甲人(ベネッセ)
『よだかは、実にみにくい鳥です。』
のっけからこの出だしに胸を突かれる思いがします。
それはこの有名すぎる物語の結末を、すでに知っているせいかもしれません。
その見た目の醜さと、優しすぎる内面ゆえに、いわれのない差別と偏見を受けるよだか。
寄る辺ない孤独と生きづらさとに打ちひしがれつつ、それでもそういう自分自身も誰かの命を喰らって生きる罪な生き物だと知っている彼。
こんなふうに物事のつながりを俯瞰して捉える視点が、よだかの苦しみをより倍増させたのかもしれません。
『私のようなみにくいからだでも、やけるときには小さなひかりを出すでしょう。』
空のはてでその身を燃やして、よだかは何を照らそうとしたのでしょう。生きるという行為そのものが抱えている罪でしょうか。
それともこんな罪深い命でも、誰かのために暗闇を照らす小さな光になり得るのだと、ささやかな救済を体現しているのでしょうか。
自己犠牲は宮沢賢治の文学における大きなテーマのひとつですが、それは常に、己の抱える罪深さとひとつながりになっているように思います。皆の幸せのために生きて、はじめて己の持つ罪が浄化されるとでも言うように。
空のどこかで、今も静かに燃えているよだかの星。
今なお無駄な殺生を繰り返している我々に、その星は、ひとつの道しるべとなってくれはしないでしょうか。