今月のおすすめ絵本

雪の女王
 原作・ハンス・C・アンデルセン 文・ナオミ・ルイス 絵・エロール・ル・カイン(ほるぷ出版)

冬の日、ひょんなことから雪の女王にさらわれてしまった少年カイ。幼馴染みの少女ゲルダは、彼を探して長い旅に出るのですが…。

よく知っているつもりの話なのに、改めて読んでみると実に不思議な話なのです。そもそも雪の女王っていったい何者なのでしょう。

カイは雪の女王に魔法をかけられ心(感情)をなくすわけですが、そんなカイを助けるためにゲルダが雪の女王と対決するわけでもありません。肝心の場面で雪の女王は不在のまま、その存在は何となくなかったもののように扱われて終わるのです。

不思議に思うのは次の一節。

 

雪の女王は、カイにいいました。「もし、氷のかけらをつかって、永遠という文字をつくれたら、おまえを自由にしてあげよう」と。 

 

永遠とは何でしょう。

雪と氷に吹きこめられた永久凍土に建つ氷の城こそ永遠そのものに思えるのに、そこに住む女王ですら、実は永遠を手にしてはいないというのでしょうか。

それともこれこそが雪の女王の呪いでしょうか。氷の口づけで心を凍らされたカイが、二度と再び心(感情)に支配されることのないように。永遠という文字がつくれぬ限り、カイは永遠に氷の城の住人であり続けるわけですから。

そんなカイの心を溶かし、永遠という文字をつくってみせたのがゲルダの“まごころ”であるならば、雪の女王とは人間の持つ心―――様々に揺れ動き、形を変え、善にも悪にもなりうるもの―――に対する、不信あるいは拒絶という概念のようなものだったのかもしれませんね。

 

永遠とは凍結することではなく巡り廻るもの、ただその中にいつまでも変わらぬ何かをひそませているもののことではなかろうか。そんなことを考えさせられる話でした。

エロール・ル・カインの描く、刺すような美をまとった雪の女王をどうぞ堪能してください。

 

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